山に抱かれるようにして建つ秘境の宿
その昔、マタギがこのお湯で疲れや傷を癒したと言われる「打当温泉 マタギの湯」は、現代の北秋田市民にとってもリフレッシュの場。館内には、温泉、お食事処「シカリ」、マタギ資料館があります。宿泊してゆっくりくつろぐのもよし、日帰りで温泉と食事を楽しむもよし。県内最初のどぶろく特区に認定されており、濁酒「マタギの夢」を製造販売しています。
山奥の景色と空気を存分に楽しめる半露天風呂
源泉掛け流しの温泉は、体の芯から温まり湯冷めしにくいのが特徴です。神経痛や冷え性、疲労回復に良いと言われています。大きな窓から風景を楽しめる大浴場、眼前に木々を望める半露天風呂など、広々とした温泉で身も心もゆったりと癒されます。湯口がクマの顔になっているのがポイント!
熊鍋定食3,200円(税込)。山の幸をふんだんに使った小鉢も魅力!
お食事処「シカリ」では、地元の山の幸を味わうことができます。一番人気は「熊鍋定食」。クマの肉に3〜4時間じっくりと火を通してアクを抜き、薄くスライスして煮込んでいるため、脂が乗って甘みがあり、とても柔らかいのが特徴です。味噌汁や小鉢には、春は山菜、秋はキノコなど山の恵みがたっぷりと使われています。
熊鍋単品は2,600円(税込)。定食も単品も、3日前までに予約が必要です
クマの肉は固くてクセがあるというイメージもあるかもしれませんが、この熊鍋のトロトロとろけるような肉を食べると、ガラリとイメージが変わります。臭み消しの山うどや大根も、いいアクセント。肉や野菜のダシと味噌味が合わさり、隠し味に使っているどぶろくがコクを生み出しています。食べ進むほどに、モリモリと元気がわいてくるお鍋です。
マタギの住まいを再現。昔、マタギが使っていた道具を展示しています
食事のあとは、別館の「マタギ資料館」へ。音声ガイドを聴きながら、マタギの世界観を体感することができます。案内は、マタギの始まりとして語り継がれている「万事万三郎(ばんじばんざぶろう)」の伝説からスタート。平安時代の優れた猟師・万事万三郎が天皇から免状をもらい、国境を越えて猟をする許可を得たのが始まりで、この万事万三郎の子孫が旅マタギとして全国に散らばったと言われています。阿仁のマタギは、全国に散らばるマタギの「本家」なのです。
その昔、マタギが使っていた狩りの道具「ナガサ」
「ナガサ」は、先が鋭く切れ味の良い優れた道具。フクロナガサの柄が丸く筒のようになっているのは、長い棒を差して槍として使うためです。また、ナガサの鞘が平らなのは、肉を切り分ける時にまな板がわりにするためだったそうです。雪深い山の中で狩りを行うマタギは、なるべく持ち物を減らせるように工夫を凝らしていたことがわかります。このほか、集団で行う狩りの技や儀式、歴史などについても詳しく知ることができます。
「マタギの湯」の正面に再現されたマタギ小屋。冬の山中で狩りをするときのベースキャンプでした
マタギは山に入って狩ったクマを「神様からの授かり物」として大事に扱い、余すことなく食べます。胆嚢は乾燥させて、「熊の胆(くまのい)」という薬として重宝していました。人間も自然の一部であり、自然の恩恵を受けながら野生生物と共存して生きるーーそのようにして生活してきたマタギの姿を垣間見ることで、北秋田市の伝統的な暮らしを知ることができます。
【打当温泉 マタギの湯】
北秋田市の名物「バター餅」5個450円(税込)と「笑内(おかしない)」1個100円(税込)
ここで、北秋田市の名物をご紹介します。一つは、マタギの携帯食として重宝されていたといわれる「バター餅」。昔から市民に愛されてきた郷土菓子で、複数の店舗で販売されています。そのうちの一つ「柴田さん家の元祖バター餅」は食感がふんわり柔らかく、口の中でバターの甘い香りが広がります。
もう一つは「笑内」。北秋田市と旧角館町をつなぐ秋田内陸線の駅名がネーミングの由来となっています。チーズを白あんで包み、香ばしく焼き上げたチーズ饅頭で、おやつとして親しまれ愛されています。素朴な郷土のお菓子をぜひ味わってみてください。
【笑内(おかしない)】
【元祖 バター餅】
取材日:2021年11月